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築50年を超えた中古マンションの今後(2/3回目)

2024年4月5日 カテゴリ: 業界情報

前回から引き続き2回目の今回も、当サイト会員の松山マンション管理士より、実例を交えながら築50年を超えたマンションのこれからについて、ご紹介いただきます。

 

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≪築年数を経たマンションでは何が起こるのか?≫

 

~若年層と高齢層の価値観の違い~
仕事柄、多くのマンション管理組合様とお付き合いをさせていただく中で、まずは区分所有者の年齢層の違いがあります。
築40年、50年のマンションでは、新築時に購入された多くは30代~40代の方と思われ、仮にそのままお住まいになっていれば70代・80代になっています。中には転売したり、相続されたりして若い二次取得者の手に渡ったものもあるでしょう。
こうして、若い区分所有者層と高齢の区分所有者層に分かれていきます。
この年代による価値観の違いが、マンションの活動について影響を与えています。

 

私が顧問をしたマンションの実例をご紹介します。
ある築30年を超えた大型マンションでは、宅配ロッカーがなく、利便性を考えて宅配ロッカーを置きたいという要望があり、理事会で検討していました。
宅配ロッカーにもいろいろタイプがあり、インターネットで制御され仮にカードをなくしても電話で遠隔で開閉してくれるサービスがあるものや、受取人自身で4桁の番号をくるくると回して開けるアナログなタイプもあったりします。
このマンションでは、前者のインターネット制御の宅配ロッカーを、エントランスの空いたスペースに置くことにつき、景観が変わる・エントランスの通行等のみの用途から「宅配ロッカー置場」という用途に変更するため、安全を見て特別決議にて諮るべくアンケートを実施しました。
その結果は総議決権数・総区分所有者数の3/4を取得できないような回答でした。安全を見て実施したアンケートでしたが、予想に反し多くの反対者がいたのです。
反対者の多くは普段ご在宅している高齢者で、反対理由は「再配達があるからいらない」「宅配ロッカーがあったら、上まで持ってきてもらえなくなる」「宅配ロッカーに入れられると自分では部屋まで運べない」「余計に管理費や修繕積立金がかかるのが嫌だ」「通販をしないからいらない」というものでした。
アンケート結果は思わしくなかったものの、総会では賛成してくれるかも・・という淡い期待を込めて、議案の案文を作り込み、総会に議案上程しましたが、結果は否決となりました。
とはいえ、賛成者数で言えば過半数を超えており、1/4弱の反対者と議決権を行使しない無関心な方によって設置ができないという状況でした。
反対者が出ることはアンケートから容易に想像できたことから、広報紙に「宅配ロッカーを使いたくない場合、カードを発行しなければよい」「受益者負担という考え方・運用も可能」という解決案を掲載したにもかかわらず、なかなかご理解いただけないものだな・・と感じました。

 

他の事例では、玄関ドアや窓サッシの更新工事を「借金にはなるものの、補助金のある今年に行おう」とした管理組合の方針に対して、すでにドアが歪んでいて閉めづらくなっていたり、窓がしっかりと閉まらずヒューヒューとすきま風が入ったり、台風のときには窓の隙間から室内に雨水が浸水したりと、不具合が満載であるにもかかわらず「今のままでいいよ」「別に不便していない」「そういうものだと思っているから何とも思わない」という高齢の居住者が多くいたのが衝撃的でした。
メンテナンスはマンションの資産価値を下げないためにも重要で、当然若年層は「防犯性能が高まる」「ぜひやってほしい」という声が多かったのは言うまでもありません。
高齢の居住者としては、借金という消極的な方法を採用することから、いつか管理費等が値上がりするかもしれないという不安感からの回答だったかもしれません。
結果としては賛成が過半数でしたので、工事が行われ「ドアが開けやすい」「部屋が暖かくなった」と喜ばれていますが、最新の住宅設備は体験しなければその良さがわからないということを学びました。

 

これらは顕著な例であり、若年層と高齢層、ここでは労働している生産年齢と非生産年齢での価値観の相違が、マンションの資産価値・利便性に影響を与えているということです。

 

一例として、ほぼ新築のマンション管理組合様の理事会とのお付き合いをご紹介します。
そちらはTeamsを使用した理事会運営を行い、メールでさえも使用しない環境でありながら、非常にスピーディに意思決定を行っています。
新築ですが、アフター対応や様々な補助金を活用し、電気自動車の充電設備や余っている駐車場の外部貸しまで柔軟に対応しています。
区分所有者のほとんどが現役世代であることが、上記を可能にしている要因だと思います。
これを築40年超のマンションで導入できるかと言えば・・私はとても不安です。

 

一般的かつ個人的な意見ですが、現在の日本社会では、高齢になるにつれリスクが高まることから将来への不安感が大きくなり、保守的、つまり現状維持バイアス(=自己防衛本能)が強くなる傾向にあると思われ、変化を嫌うように思います。
若年層の柔軟な考え方についていけないとすれば、どうしてもそのマンションは、「できない方に合わせる」というのが基本的な考えとなり、結果として効率化や合理化、そして前編で紹介した宅配ロッカーにあるようなグレードアップも拒むのだと思われます。
加えて、デジタルリテラシー※の差もあり、より溝が深まっているものと考えられます。
そして、さらに溝を深めているのがミレニアル世代※との考え方のギャップです。
私を含むマンションのメイン購入者層となっている30代~40代のミレニアル世代の方々は、自分の時間を大切にしますので理事会は短めに、デジタルを活用し、会議はできるだけ合理化・効率化を図ります。
また、外部コンサルタントに委託することも違和感なく、できないものはプロに任せて時間を買うという意識も高い方々です。
一方、60代~70代の方々は、アナログ時代を不屈の精神で乗り切った世代であり、長い会議や飲み会にてコミュニケーションを図り、根回しを重視して猛烈にお仕事をしてきた方々です。
この世代間ギャップは埋めようもないくらい深い溝であり、特に築30年超えのマンションではこの差と価値観の衝突が顕著に表れています。その一例が前編でご紹介した宅配ロッカー否決事案でもあります。

 

これらの解決策は「対話」と「充実した情報提供」にあると考えていますが、拒否をする動機はそれぞれですので、絶対的な解決策にはなりません。永遠の課題のように思われます。

 

とはいえ、マンションの管理費は、消費税の増税、人件費増、物価高に応じて上がっていくもので、マンション購入時にそういった勉強はしないですし、新築時の管理費が絶対的で、高くなることは悪だとお考えの方が多いのも一因と考えます。

 

以上、人に対する視点でしたが、次回は物、つまり建物としての価値に焦点を当ててみます。

 

 

(松山マンション管理士)

 

※デジタルリテラシー ・・・ デジタル技術を理解して、適切に活用するスキルのこと。
※ミレニアル世代 ・・・ 1980年代から1990年代にかけて生まれた世代。生まれ育った時から、情報通信機器やサービスに慣れ親しんだ世代。

 

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いかがでしたでしょうか。
居住する区分所有者の「様々な年代の価値観」をまとめる力が、築50年を超えるマンション運営では、より重要になってきます。

 

次回の「築50年を超えた中古マンションの今後」もどうぞお楽しみに。