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委任状・議決権行使書の閲覧

2024年8月9日 カテゴリ: 管理組合

年1回の開催が義務づけられている総会ですが、議題によっては組合員同士で意見が割れたり、会議が混乱するような場面があります。
全体をまとめる際は、何を基準に判断すれば良いのでしょうか。
当サイト会員の松山マンション管理士より、スムーズな総会運営のために、いくつかの判断基準をご紹介いただきます。

 

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マンション管理士職人の松山です。
さて、今回は、いたってまじめなコラムです。
テーマは「総会に提出された出席票・委任状・議決権行使書は、組合員の閲覧請求の対象書類になるか?」です。
トラブルのにおいがぷんぷんしますね。

 

管理組合で、例えば理事会と組合員とで争いがあるような話題を持っている場合、総会での審議について、反対派の方々から、様々な抵抗を受けることがあります。
我々マンション管理士は、大方の場合、理事会側のコンサルであることから、組合員側の主張がよほど正当なもの、あるいは明確に管理組合の利益になるものでない限り、単なる少数者(そのマンションにとって少数派の価値観を持つ方々)の意見として、汲み取りはするものの、一意見として受け取ることしかできないのが現状です。

 

あくまで個人的な意見ですが、マンションに正義はありません。
多数を取った方が正義であり、それが裁判所においてひっくり返れば、表になった方が正義です。

 

そのような状況の中で、少数派の方々が「総会の議決権行使の数に疑義がある」ということで、すべての出席票、委任状、議決権行使書の提出者の用紙を閲覧したいという要求があったとします。

 

この場合、理事長・理事会側は、閲覧させるべきなのでしょうか?
5つの視点からこれを検討してみたいと思います。

 

1. 否定された裁判例がある。
まず、平成21年10月20日判決・東京高裁平成22年4月6日判決の「資料閲覧請求事件」で否定された例があります。
最も参考になる例ですね。

 

2. 個人情報保護法によって規制対象となる個人データにあたるため制限を受ける。
まず、管理組合は、個人情報保護法上、個人情報取扱い事業者とされています。
したがって、整理されて検索性のある個人情報は個人データとされ、第三者への閲覧等について制限を受けます。
本来、総会の出席票・委任状・議決権行使書は議長に充てて提出されるものであり、管理組合という団体に帰属しません。(管理組合あてであれば、代表者の理事長あてとなるべきです。)
また、その用途というのは、総会を成立させ、意思表示をすることであり、それ以外の用途に使用してはいけないこととなります。
組合員が閲覧したいとした場合には、用途外の用途であり、また提出者以外の第三者に閲覧させることとなり、本人の許可が必要です。
とはいえ、そもそも閲覧に本人の許可が必要であれば、お願いする際に口頭で「賛成しましたか?反対しましたか?」と聞けばいい話であり、それさえ答えてくれない間柄であれば、閲覧も認められないのは容易に予想がつきます。

 

3. 当該組合員がチェックしなくとも、真実性は担保される手続きとなっている。
議事録を作成するにあたり、議事録署名人を必ず選任する必要があります。
議事録は議長が作成し、そこに署名することで議事録の有効性を担保します。そして、議事録署名人による署名は、有効性ではなく真実性の担保にその効果が限定されているとされています。(つまり、署名人が署名したくないと言っても、議長が署名されていればその議事録は有効なものであるということです。)
そして、管理組合には監事もいます。組合員との関係では、監事と組合員は委任の関係にありますから、組合員が監事に依頼し、その議事録に関する監査を行えばよいということになります。
その組合員が閲覧したからと言って、その閲覧結果について主張があったとしても、根拠が薄いものになってしまいます。

 

4. 一般的に、管理規約に、閲覧可であると明確に記載されていない。
まず、出席票や委任状・議決権行使書の閲覧に関しては、一般的に標準管理規約には明確に閲覧規定が定められていないことがほとんどです。
そういった文書においては、管理組合に閲覧を請求する場合には、直接の利害関係人であるとか、裁判所の許可を得ているとか、もしくは誰もが閲覧する必要性について納得するような正当な理由が(果たして具体的にどんな理由なのかは想像できませんが)が必要とされています。

 

5. 閲覧者が、閲覧に関する正当な理由を持っていないことが多い。
準用例として、株主総会での議決権行使書・委任状の閲覧に関しては、まさにこれです。
むしろこの反対派の方々が閲覧した結果、何をするのかといえば、賛成者のあぶり出しでしょう。賛成者に対して非難するのか、説得するのか、あるいは危害を加えようとする意図があるのか・・このような状況下では、いずれも閲覧によって余計なトラブルを招くであろうことが容易に想像できます。

 

ところで、総会の議場において賛成者は挙手を、反対者は挙手を、という議決権の行使をカウントすることがほとんどと思われますが、この議決権行使の方法は議長が決定します(その前に、よろしいでしょうか?という確認がありますが) この議決権行使の方法では、少なくとも出席者においては、賛成者が誰かがわかってしまいます。これをわからないようにしたい場合、議決権行使書の短冊等を用意して、議案ごとに名前と賛成・反対を記入し、箱に入れてもらうような方法であれば、匿名とすることができます。

 

果たして、挙手という議決権行使の方法自体に問題はないのでしょうか。

 

区分所有法の立法担当者は「区分所有法で定める集会は、原則全員が集まって意見を交わし総意を決める。」ということを想定しているとのことです。
そもそも委任状や議決権行使書はあくまでサブであって、出席が基本だと考えているのですね。
そして、区分所有法は民法の「共有」の考え方に関する特別法※です。
したがって、全組合員が総会に出席して意見を交わすことについて、誰が何を言った、どんな意見かは、わかって当然であるという前提ということであり、挙手で誰が賛成したか、反対したかが分かったとしても、それは共有において当然に生じるものであるという考え方ですから、特に問題はない、ということのようです。

 

スムーズな総会運営のためのヒントをいくつかご紹介しましたが、以上の理由から、出席票・委任状・議決権行使書の閲覧請求があった場合には、慎重にご判断されることをお勧めいたします。

 

 

(松山マンション管理士)

 

※特別法 ・・・ 特別法とは、一般法に対して、適用の対象が特定の人・事物・行為・地域などに限られる法律。一般法が適用される事項のうち、特定の事項に限定して適用される法律のことで、一般法よりも優先して適用される原則がある。

 

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いかがでしたでしょうか。
今回のコラムを参考に、もし判断に困ることがありましたら、経験豊富な専任担当者と当サイト会員のマンション管理士がお力になります。
お気軽にご相談ください。

 

次回もどうぞお楽しみに。