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修繕積立金不足のメカニズム

2023年9月6日 カテゴリ:お知らせ

当サイトへのご相談いただく際に『修繕積立金が足りなくて工事が出来なく困っている』といった内容のご相談が年々増えてきているように感じます。そこで今回は『修繕積立金不足』がなぜ発生するかについて考えてみようと思います。当たり前のことですが不足するという事は

修繕積立金-工事費用=マイナス金額(お金が足りない)

となる状況を指します。この状況が発生する理由としては

 

①修繕積立金が予定した額に達していない。

  ⇒修繕積立金が予定額に達していない(計画通り積み立てられなかった)

②工事費用が予定した額より高くなった。

  ⇒修繕計画が甘かった/物価高騰などの影響/建物の状態が想定以上に劣化していた

 

のいずれかに分類することが出来ます。ここでは前者の『修繕積立金が予定した額に達していない』についてのみ検討していきます。

 

 

まず『修繕積立金』は毎月積み立てていくものですが、どの程度の金額が一般的なのかを確認します。国土交通省で作成している『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』には、全国のマンションを調査して『修繕積立金』に関する統計データがあります。そこでは『階数/建築延床面積』を元にいくつかに分類されており、それぞれの『修繕積立金(月額/㎡単価)』を『平均値』と『統計の2/3をカバーする値』を確認することが出来ます。

 

 ≪改定前(2011年)≫

修繕積立金ガイドライン_修繕積立金_現行

 

≪改定後(2021年)≫

修繕積立金ガイドライン_修繕積立金_改正案

 

※国土交通省マンションの修繕積立金に関するガイドライン 新旧対照表より

 

元々は2011年に作成された資料ですが2021年に改訂され、全体的に金額が上昇していることが分かります。特に『5000㎡未満』の部分では

 

・上限の金額が『250円⇒430円=180円アップ』

 

となっており、大幅な上昇が確認できます。ではなぜ大幅な上昇をしたのでしょうか。これには『修繕積立金』の積立方法が関係していると考えられます。

前提となる積立方法は大きく分けて2種類あり、特徴は以下の通りです。

 

『均等積立方式』

建物の耐久年数までに必要とされる修繕費用の総額を毎月均等に積立する方式で、国土交通省でも推奨されている積立方式です。基本的には積立金の増額をする必要は無いとされますが実際は小幅な増額などはある様です。

『段階増額積立方式』

次回の大規模修繕に向けて必要とされる総額に向けて一定年数ごとのに積立金額が増額される方式で、築年数が高くなるほど積立金の額は高額になります。

 

実際のマンションでの採用割合に関しては下記の表で確認が出来ます。

 

マンション総合調査(2018年)_修繕積立金の積立方式

 

※国土交通省平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状より

 

この図はマンションが完成した年次とそのマンションが完成時に採用している修繕積立金の積立方法を集計したものになります。1980年代から『段階増額積立方式』を採用するマンションが増えていき、2010年には半数以上のマンションで採用されるまで増えたことが分かります。先ほどの『修繕積立金』の大幅な上昇は『段階増額積立方式』を採用するマンションが増えたことで、統計結果にも反映されたという事ではないかと思われます。

 

 

次に『段階増額積立方式』がなぜ増えてきているのかについて考えてみましょう。『修繕積立金』に関するルールはマンションが完成した時点であらかじめ定められています。これは新築に入居してすぐに『修繕積立金』を積立始めるからであり、入居者が入居後すぐにこれらのルールを決めていくことは難しいためです。マンションの販売会社としては積立方式がどちらであっても影響がないように思われますが、実は『段階増額積立方式』の方がローンを組みやすいという事情から、『段階増額積立方式』が採用されやすいのです。

どういうことかというとローンを組む際には家計の中でローン返済能力がどの程度あるかを判断する際に『収入-支出=ローン返済能力』の様な式で判断をするからです。例えばローンを組むのに『ローン返済能力=10万円』以上の人でないとローンが組めないとします。

 

・『支出=10万円』の場合

 『20万円-10万円=10万円』 ⇒ 『収入=20万円』以上でローンが組める

・『支出=20万円』の場合

 『30万円-20万円=10万円』 ⇒ 『収入=30万円』以上でローンが組める

 

となります。つまり支出が少ないと収入が少なくてもローンを組める人が増えるという事になります。実は、この支出の中には『修繕積立金』も含まれるため、『修繕積立金』が低ければローンを組める人が増えるという事になります。ローンを組める人が増えれば販売先が増えるため、マンションの販売会社としても『段階増額積立方式』を採用するマンションを増やしていくのは自然な流れだと言えます。

 

 

最後に『修繕積立金が予定した額に達していない』理由について考えていきます。通常は予定した金額を毎月積み立てることが出来れば予定した金額に達するはずですが何かしらの理由で予定した通りに積み立てられていないため最終的に『修繕積立金が予定した額に達していない』といった事態が発生します。具体的には毎月2万円積立てる計画が実際は1万円しか積み立てられていない場合は、この時点で『積立金不足』が発生していると言えます。こういった事象は『段階積立方式』の方が発生しやすい環境にあります。『修繕積立金』の増額はマンションの管理組合で3/4の賛成を得ることが必要です。しかし、住人の中にはマンションに永住を考えている人と転居を前提とした人が居て、それぞれのマンションに関する考え方は異なります。転居を前提としている人にとって入居中は『修繕積立金』の負担が小さいほうが望まし、長い目で見てマンションの価値を維持しようと思ったりはしていない可能性もあります。したがって、増額幅が5000円なら賛成できないけど1000円なら賛成できるというような状況が生まれやすく、本来必要である5000円の値上げが出来ず1000円の値上げにとどまってしまうケースも多くなり、結果として『修繕積立金不足』が発生しやすくなる状況にあると考えられます。